年110万円の生前贈与は廃止された?7年ルールと名義預金の注意点を税理士が解説

こんにちは。税理士の蛇沼です。

「毎年110万円までの生前贈与は、廃止されたのでしょうか?」

結論からいうと、暦年課税の年110万円の基礎控除は廃止されていません。その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、暦年課税では原則として贈与税はかからず、申告も不要です。

ただし、「贈与税がかからないこと」と「将来の相続税の対象にならないこと」は別です。

税制改正により、相続前の贈与を相続税の計算に加算する期間が、3年から最長7年へ段階的に延長されています。

この記事では、年110万円の基礎控除、相続前の贈与の加算ルール、贈与契約書や振込記録を残す際の注意点を解説します。

本記事は2026年9月30日時点の法令・国税庁公表資料に基づいています。

この記事でわかること
  • 「年110万円までの贈与」は今も使えるのか
  • 暦年贈与の基本と、相続税の「7年ルール」
  • 生前贈与をするときに注意したいポイント
  • 贈与契約書や振込など、贈与の記録を残す方法
目次

「110万円の非課税枠」は今も健在!そもそも暦年贈与(れきねんぞうよ)とは?

生前贈与の基本となるのが「暦年贈与」です。
これは、毎年1月1日から12月31日までの1年間に、お金をもらう人(子どもや孫など)1人あたり110万円までなら、贈与税がかからないという制度です。

ここでよくある勘違いが、「あげる人基準」で考えてしまうこと。

 正解

  • 父親から110万円、母親から110万円、合計220万円をもらった。どちらも110万円以下だから非課税!
  • もらった本人の合計が220万円になるため、110万円を超えた部分(110万円分)に贈与税がかかります。

あくまで「もらう人」が主役の制度だと覚えておいてくださいね。

このように、暦年贈与では年間110万円の基礎控除を利用できます。
では、相続対策としてこの110万円の枠を毎年使った方がよいのでしょうか。

実は、生前贈与が必要かどうかは、相続税がかかるか、今後の生活に必要なお金を十分に残せるか、ご家族にどのように財産を残したいかなどによって変わります。

📌「そもそも自分は生前贈与をした方がいい?」という方は、まずこちらの記事をご覧ください。

年110万円以下でも、相続税に加算されることがあります

暦年課税では、亡くなった方から相続や遺贈などで財産を取得した人が、その方から相続開始前の一定期間に贈与を受けていると、贈与された財産が相続税の計算に加算されます。

これを「生前贈与加算」といい、「持ち戻し」と呼ばれることもあります。

贈与そのものが取り消されるわけではなく、相続税を計算するときに贈与財産の価額を加える仕組みです。
年110万円以下で贈与税がかからなかった財産も、加算の対象になることがあります。

加算期間は、相続が発生する時期によって違います

相続開始日加算対象となる贈与の期間
2026年12月31日まで相続開始前3年以内
2027年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日から死亡日まで
2031年1月1日以後相続開始前7年以内

2024年以後の贈与から段階的に対象期間が延び、2031年以後の相続では、相続開始前7年間が対象になります。

延長された期間には、総額100万円の控除があります

相続開始前3年以内より前の、延長された期間の贈与については、その価額の合計から総額100万円までが加算されません。

これは「毎年100万円」ではなく、延長された期間の合計に対する100万円です。

贈与を受けた人全員が対象になるわけではありません

加算の対象になるかは、贈与を受けた人が、亡くなった方から相続や遺贈などによって財産を取得したかによって変わります。

例えば孫への贈与でも、遺言によって財産を取得したり、相続税の対象となる死亡保険金を受け取ったりすると、加算の対象になる場合があります。

「子どもだから対象」「孫だから対象外」と、続柄だけで判断しないことが大切です。

参考:国税庁「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」

まず、ご家庭に相続税がかかりそうか確認してみませんか?
相続税がかからないのであれば、税金を減らすことだけを目的に、急いで生前贈与をする必要はありません。
ご家族と財産のおおよその金額から、相続税がかかる可能性を約3分で確認できます。

名義預金と判断されないために確認したい3つのこと

子どもや孫の名前の口座にお金を移しても、それだけで贈与が成立したとは限りません。

口座の名義は家族でも、実際には親の財産と判断される預金を「名義預金」と呼びます。
その場合、親が亡くなったときには、親の相続財産として申告が必要になることがあります。

確認したいのは、次の3つです。

贈与する側・受ける側の合意があるか

贈与は、「あげる」「もらう」という双方の合意に基づいて行います。

本人に知らせずに口座を作り、お金を積み立てている場合は、贈与が成立しているかを慎重に確認する必要があります。

贈与後のお金を、誰が管理・使用しているか

贈与したお金は、受け取った人の財産として管理・使用できる状態にしておくことが大切です。

ただし、親が通帳を保管しているという事情だけで、必ず名義預金と決まるわけではありません。
資金の出所、贈与の合意、管理や使用の実態などを総合的に確認します。

未成年の子どもについては、親権者による管理もあるため、成人への贈与と同じようには判断できません。

贈与の合意と、お金の移動を記録しているか

贈与契約書には、贈与する人・受ける人、日付、金額、贈与する財産などを記載します。

お金の移動は銀行振込にすると、送金日や金額を確認しやすくなります。契約書と振込記録を一緒に保管しましょう。

現金の手渡しでも贈与はできますが、後から説明できる記録を残すことが大切です。

なお、契約書や振込記録があっても、それだけで贈与が必ず認められるわけではありません。記録と実際の管理・使用の状況が一致していることが重要です。

そのまま使える!「贈与契約書」無料テンプレート(ひな形)

贈与契約書には決まったフォーマットはありません。
手書きでもパソコン作成でも、以下の内容が正しく記載されていれば有効です。

コピーして、A4用紙などにプリントアウトしてご活用ください。

           贈 与 契 約 書

贈与者(以下「甲」という)と、受贈者(以下「乙」という)は、本日、以下の通り贈与契約を締結した。

第1条(目的)
甲は、乙に対し、令和◯年◯月◯日、甲の所有する下記現金を贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

第2条(内容)
金 1,100,000円

第3条(方法)
甲は、乙が指定する下記の銀行口座に振り込む方法により支払うものとする。
・◯◯銀行 ◯◯支店
・普通預金口座 口座番号:◯◯◯◯◯◯◯
・口座名義:乙(受贈者の氏名)

以上の契約を証するため、本契約書を2通作成し、甲乙それぞれが署名・
押印の上、各1通を保有するものとする。


令和◯年◯月◯日


(甲)贈与者(あげる人)
住所:名古屋市天白区〇〇1丁目2番3号
氏名:松本 太郎     印

(乙)受贈者(もらう人)
住所:名古屋市緑区〇〇4丁目5番6号
氏名:稲葉 一郎     印

贈与契約書を作成するときの注意点

実際の合意内容を記載する

日付、金額、贈与する財産、支払方法などは、実際の合意に合わせて記載してください。
上のひな形の金額や氏名も、利用する方の内容に変更します。

過去に作成したように日付をさかのぼらせることは避けましょう。

双方が内容を確認し、記録を保管する

双方が内容を確認したうえで署名し、それぞれ契約書を保管すると、合意の記録を残しやすくなります。

押印は契約成立の必須条件ではなく、実印でなければ贈与できないわけでもありません。
大切なのは、本人の合意と実際の贈与を説明できることです。

毎年の贈与と、複数年の約束を区別する

毎年、その都度贈与を合意する場合と、最初から「毎年100万円を10年間渡す」と約束する場合では、税務上の扱いが異なることがあります。

契約書も、実際の約束の内容に合わせて作成してください。

参考:国税庁「毎年、基礎控除額以下の贈与を受けた場合」

金銭の贈与なら収入印紙は「不要」

現金の贈与契約書には、金額に関わらず収入印紙を貼る必要はありません。お金をかけずに今すぐ作成できます。

まとめ|110万円の枠だけでなく、将来の相続まで考えましょう

暦年課税の年110万円の基礎控除は、現在も利用できます。

ただし、年110万円以下の贈与でも、将来の相続税の計算に加算されることがあります。また、家族名義の口座に送金しただけで、贈与が成立するとは限りません。

生前贈与を始める前に、次の点を確認しましょう。

  • 将来、相続税がかかる可能性があるか
  • 贈与後も、自分の生活や介護に必要なお金を残せるか
  • 誰に、何のために財産を渡したいか
  • 暦年課税と相続時精算課税のどちらが合うか
  • 贈与の合意と資金の移動を記録できているか

「今から贈与を始めても効果がある?」
「以前から積み立てている子ども名義の預金は、どう整理すればよい?」

そのような段階からご相談いただけます。
当事務所では、名古屋市緑区を中心に、周辺地域への出張相談にも対応しています。初回60分は無料です。

年110万円の贈与に関するよくあるご質問

Q. 年110万円までの贈与は廃止されたのですか?

いいえ。暦年課税の基礎控除である年110万円は廃止されていません。
現在も、その年の1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、暦年課税では原則として贈与税はかかりません。

「110万円の贈与が廃止された」といわれる背景には、相続前の贈与を相続税の計算に加算する期間が延長されたことなどがあります。

Q. 年110万円以下なら贈与税の申告は不要ですか?

暦年課税を利用し、その年に受けた贈与の合計額が110万円以下であれば、原則として贈与税の申告は必要ありません。

ただし、110万円は「贈与する人ごと」ではなく、贈与を受ける人ごとの年間の基礎控除です。
たとえば父から100万円、母から100万円を同じ年に受け取った場合には、合計200万円として計算します。

Q. 相続時精算課税にも年110万円の非課税枠があるのですか?

はい。令和6年(2024年)以後の贈与から、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられています。
この基礎控除の範囲内の贈与については、原則として贈与税の申告は不要で、将来の相続時にも相続財産へ加算されません。

さらに、年110万円を超える部分については、累計2,500万円までの特別控除があります。ただし、この2,500万円の特別控除を使った部分は、贈与時には贈与税がかからなくても、原則として将来の相続時に相続財産へ加算して相続税を計算します。

そのため、

年110万円の基礎控除 → 相続時にも原則加算されない
2,500万円の特別控除 → 贈与時は非課税でも相続時に加算される

という違いがあります。

また、一度相続時精算課税を選択すると、その贈与者について暦年課税へ戻ることはできません。

なお、初めて相続時精算課税を選択する場合には、贈与額が年110万円以下でも、期限内に選択届出書などを提出する必要があります。

Q. 年110万円以下の贈与でも、相続が発生すると相続税の対象になりますか?

暦年課税では、相続や遺贈により財産を取得した人が、相続開始前の一定期間に被相続人から受けた贈与について、相続税の計算に加算されることがあります。

税制改正により、この加算対象期間は従来の3年から最長7年へ段階的に延長されています。
そのため、「毎年110万円以下だから相続税にも関係ない」とは限りません。

Q. 暦年課税と相続時精算課税は、どちらを選べば得ですか?

どちらが有利かは、財産額や年齢、家族構成、将来の相続税、贈与する財産の種類などによって異なります。

特に相続時精算課税は、一度選択するとその贈与者について暦年課税へ戻れないため、単純に「110万円の基礎控除があるから」という理由だけで選ぶのはおすすめできません。

生前贈与だけでなく、将来の相続まで含めて比較してから選択することが大切です。

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    この記事を書いた人

    税理士の蛇沼です。
    名古屋市緑区を中心に天白区、南区、大府市、東海市、豊明市などで相続・贈与相談をサポート。司法書士・弁護士・宅建士等との連携で、あらゆるお悩みの「総合窓口」として対応します。
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