こんにちは。税理士の蛇沼です。
2026年9月18日、国税庁は「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達案を公表しました。
今回の通達案では、相続や贈与の直前に取得・新築した賃貸不動産について、従来の路線価や固定資産税評価額を基礎とする評価方法ではなく、原則として「通常の取引価額」で評価する方針が示されています。
いわゆる貸付用不動産の相続税評価における「5年ルール」です。
一方で、
「5年以内に購入した賃貸不動産は、購入価格の80%で評価される」
「5年を過ぎれば、必ず従来の評価に戻る」
「2026年中に家族へ贈与すれば有利」
といった理解は、必ずしも正確ではありません。
この記事では、今回の通達案で明らかになった対象範囲、評価方法、経過措置、不動産小口化商品の取扱いについて、できるだけ分かりやすく整理します。
- 貸付用不動産の「5年ルール」とは何か
- どのような賃貸不動産が対象になるのか
- 原則となる「通常の取引価額」と80%評価の関係
- 土地と建物の具体的な計算方法
- 対象外となるケースと経過措置
- 不動産小口化商品に適用される別のルール
- 貸付用不動産を所有している方が今確認すべきこと
2026年9月18日に通達案が公表
国税庁は、e-Govのパブリックコメントで「貸付用不動産の評価について」の法令解釈通達案を公表しました。
| 項目 | 内容 |
| 公示日 | 2026年9月18日 |
| 意見募集期間 | 2026年10月18日17時まで |
| 対象税目 | 相続税・贈与税 |
| 適用予定 | 2027年1月1日以後の相続・遺贈・贈与 |
今回の見直しは、相続税法そのものを改正するのではなく、相続税法22条の「時価」をどのように評価するかを法令解釈通達で明確にするものです。
正式な通達はまだ発遣されていませんが、実務への影響が大きいため、貸付用不動産を所有している方は早めに内容を確認しておく必要があります。
なぜ貸付用不動産の評価方法が見直されるのか
従来、賃貸不動産の相続税評価は、一般に次のように計算されてきました。
- 土地:路線価方式または倍率方式
- 建物:固定資産税評価額
- 賃貸していることによる貸家建付地・貸家などの減額
このため、実際の購入価格や市場価格と相続税評価額との間に大きな差が生じることがあります。
特に、相続直前に賃貸不動産を購入して相続税評価額を大きく引き下げる事例については、財産評価基本通達総則6項により個別に否認されることがありました。
しかし、総則6項による個別判断だけでは、納税者にとって「どこから問題になるのか」が分かりにくいという問題があります。
そこで、対象となる貸付用不動産と評価方法をあらかじめ示し、予測可能性を高めることが今回の見直しの目的です。

貸付用不動産の「5年ルール」とは
通達案では、被相続人・贈与者などが課税時期前5年以内に、対価を伴う取引によって取得または新築した一定の貸付用不動産が対象とされています。
ここでいう「課税時期」は、相続であれば相続開始日、贈与であれば贈与によって財産を取得した日です。
対象となる基本的なケース
- 相続開始前5年以内に賃貸アパートを購入した
- 相続開始前5年以内に一棟マンションを購入した
- 以前から所有していた土地に、相続開始前5年以内に貸付用建物を新築した
- 贈与前5年以内に取得・新築した貸付用不動産を贈与した
土地を5年以上前から所有していても、その土地に貸付用建物を新築し、相続・贈与時点で新築から5年以内である場合は、原則として建物部分が新しい評価方法の対象となります。
ただし、正式な通達を定める日までに新築済み、または一定の要件を満たす建築中の建物については、経過措置により対象外となる可能性があります。
5年の判定には取得日などの確認が必要
「取得の日」をいつとするかは、契約日だけで決まるとは限りません。
売買契約書、決済資料、引渡確認書、登記事項証明書などを確認し、実際の取得時期を整理する必要があります。
相続や贈与によって取得した不動産、買換えや交換を行った不動産などは、単純に現在の登記日だけを見て判断できない場合があります。
対象となった貸付用不動産は「通常の取引価額」が原則
5年ルールの対象となる貸付用不動産は、原則として課税時期における「通常の取引価額に相当する金額」で評価します。
通常の取引価額とは、簡単にいえば、その時点で通常の市場取引を行った場合に成立すると考えられる時価です。
従来の路線価や固定資産税評価額を基礎とする方法ではなく、不動産鑑定評価などにより時価を把握することが原則になります。
「取得価額を基に計算した金額の80%」は選択できる評価方法
通達案では、通常の第三者間取引で、取得価額が取得時の時価を適切に示している場合には、地価変動や建物の償却を反映した調整後取得価額の80%で評価できるとされています。
この80%評価は、通常の購入では事実上のセーフハーバーとして機能すると考えられます。
取得価額が時価を反映していない場合や、地価の著しい変動などにより算式が実態に合わない場合は、相続開始時の通常の取引価額で評価します。
土地の計算イメージ
土地は、取得価額に地価変動率を掛けた金額の80%で評価します。
土地の取得価額 × 地価変動率 × 80%
地価変動率は、原則として課税時期の属する年の路線価等を、取得した年の路線価等で割って求めます。
購入後に周辺地価が上昇していれば、その上昇分も反映されます。そのため、単純に購入時の土地価額へ80%を掛けるだけではありません。
建物の計算イメージ
建物は、取得価額から課税時期までの償却費相当額を控除し、その残額の80%で評価します。
(建物の取得価額-償却費相当額)×80%
償却費相当額は、定額法や法定耐用年数などを基に計算する方向です。
土地と建物では計算方法が異なるため、購入時の売買契約書などで土地・建物の取得価額を確認できるようにしておく必要があります。
簡単な例で評価額の違いを確認
例えば、貸付用不動産を次の金額で購入したとします。
- 土地の購入価額:6,000万円
- 建物の購入価額:4,000万円
- 合計:1億円
課税時期までの地価変動を反映した土地の金額が6,300万円、減価償却を反映した建物の金額が3,500万円になった場合、評価額は次のとおりです。
- 土地:6,300万円 × 80% = 5,040万円
- 建物:3,500万円 × 80% = 2,800万円
- 合計:7,840万円
この例では、地価変動・建物の償却を反映した後の合計9,800万円に対し、その80%に相当する7,840万円で評価できることになります。
従来の路線価・固定資産税評価額などによる評価額が仮に6,000万円であれば、評価額は1,840万円増える計算です。
| 評価方法 | 評価額 |
| 従来の評価方法による仮の評価額 | 6,000万円 |
| 取得価額を基にした80%評価 | 7,840万円 |
| 差額 | 1,840万円 |
この差額がそのまま相続税額になるわけではありませんが、他の財産や相続人の状況によっては、相続税の負担が大きく増える可能性があります。

貸家建付地・貸家の評価減は重ねて使える?
通達案は、対象となる貸付用不動産について、土地・家屋・構築物などに関する従来の財産評価基本通達や、区分マンションの評価通達の定めにかかわらず、新しい方法で評価するとしています。
そのため、対象となった土地や建物については、路線価や固定資産税評価額を基礎とする従来の評価に代えて、課税時期の通常の取引価額または取得価額を基に計算した80%相当額で評価することになります。
つまり、貸家建付地や貸家としての評価減を適用することはできないと考えられます。
一方、小規模宅地等の特例は租税特別措置法に基づく制度であり、要件を満たす場合は別途適用を検討できます。
ただし、実際の申告では、貸付事業の継続要件、保有継続要件、貸付事業用宅地等の面積などを個別に確認する必要があります。
5年ルールの対象外となる主なケース
通達案では、次のようなものは5年ルールの対象から除かれる方向です。
- 収用などにより取得した代替資産
- 固定資産の交換の特例によって取得した資産
- 特定の事業用資産の買換え特例によって取得した資産
- 既存建物に行った増築・改築などの部分
- 一定の経過措置に該当する貸付用建物
これらは一律に判断できるものではなく、それぞれの特例の適用状況や取得経緯を確認する必要があります。
すでに建築済み・建築中の建物には経過措置
令和8年度税制改正大綱と通達案では、一定の貸付用建物について経過措置が設けられる予定です。
通達を定める日より5年以上前から所有している土地の上に、通達を定める日までに新築した建物や、その日に建築中の建物などは、以下のような要件を満たせば今回の5年ルールの対象外とされます。
- 新築に係る請負契約などが締結されている
- 実際に新築工事が行われている
- 工事費用の全部または一部が支払われている
ここでいう「通達を定める日」は、通達案が公表された2026年9月18日ではなく、意見公募を経て正式な通達が制定・発遣される日を指します。現時点では正式な通達はまだ発遣されておらず、その日付も確定していません。
すでに賃貸建物を建築中の方は、土地の取得時期、工事請負契約、着工日、完成日などが確認できる資料を保存しておきましょう。
不動産小口化商品は「5年」に関係なく対象
不動産小口化商品については、通常の貸付用不動産とは別の評価ルールが示されています。
一定の不動産特定共同事業契約や信託受益権に係る金融商品取引契約に基づく権利については、取得時期にかかわらず、原則として課税時期における通常の取引価額で評価します。
つまり、5年以上保有していても、対象となる不動産小口化商品であれば新しい評価方法の対象になり得ます。
通達案では、事業者が示す適正な処分価格・買取価格、売買実例価額、定期報告書に記載された不動産価格、不動産鑑定評価額などを参酌する計算方法が示されています。
「5年を超えて保有すれば従来評価に戻る」という理解は、不動産小口化商品には当てはまりません。
法人が所有する貸付用不動産はどうなる?
個人が不動産所有法人の株式を相続・贈与する場合は、会社の株式を評価します。
通達案では、取引相場のない株式を純資産価額方式で評価する際、法人が所有する通常の貸付用不動産について、この5年ルールをそのまま適用しない方向が示されています。
法人が課税時期前3年以内に取得した土地・建物は、従来から原則として通常の取引価額で評価する取扱いがあります。
したがって、個人所有の賃貸不動産と、不動産所有法人の株式では確認すべきルールが異なります。
2026年中に贈与すればよいとは限らない
通達案どおりであれば、新しい評価方法は2027年1月1日以後の相続・贈与から適用されます。
そのため、「2026年中に貸付用不動産を贈与した方がよいのでは」と考える方もいるかもしれません。
しかし、不動産の贈与には次のような負担や注意点があります。
- 贈与税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 司法書士報酬などの移転費用
- 借入金がある場合の金融機関との調整
- 負担付贈与となる場合の譲渡所得課税
- 将来売却する際の取得費の引継ぎ
- 相続時精算課税を使う場合の将来の相続税計算
評価方法だけを見て贈与を急ぐと、かえって税負担や手続費用が増える可能性があります。
賃貸経営を誰が引き継ぐのか、今後も物件を保有するのか、借入金や修繕計画をどうするのかまで含めて判断することが大切です。

貸付用不動産を所有している方が確認したい5つのこと
1.取得・新築した時期
売買契約書、工事請負契約書、決済資料、引渡確認書、登記事項証明書を確認します。
2.土地と建物の取得価額
売買契約書、消費税額、固定資産税評価額による按分資料などを確認します。
3.取得後の増改築・設備投資
建築費、改良費、附属設備、構築物などの内容と金額を整理します。
4.現在の相続税評価額との差
従来の通達評価と、新しい評価方法による概算額を比較します。
5.今後の保有・承継方針
売却、継続保有、生前贈与、法人化などを、税金だけでなく収益性・借入金・家族の意向も含めて検討します。
まとめ
今回公表された通達案の重要ポイントは次のとおりです。
- 課税時期前5年以内に有償取得・新築した一定の貸付用不動産が対象
- 原則は課税時期における通常の取引価額
- 一定の場合は、取得価額を調整した金額の80%で評価可能
- 土地は地価変動、建物は償却費相当額を反映
- 貸家建付地・貸家の評価減は重ねて適用できないと考えられる
- 不動産小口化商品は取得時期を問わず別ルールの対象
- 2027年1月1日以後の相続・贈与から適用予定
現時点では通達案であり、正式な通達ではありません。しかし、2027年以後の相続対策や相続税申告に大きな影響を与える可能性があります。
特に、直近5年以内に賃貸不動産を購入・新築した方、不動産小口化商品を所有している方は、現在の評価額との差を早めに確認しておきましょう。
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よくあるご質問
Q.5年以内に購入した賃貸不動産は、必ず購入価格の80%で評価しますか?
いいえ。原則は課税時期における通常の取引価額です。
課税上の弊害がなく、取得価額などが適正と認められる場合に、取得価額を基に地価変動や建物の償却を反映した金額の80%で評価できるとされています。
Q. 5年を1日でも超えれば、必ず従来の路線価評価に戻りますか?
通達案の5年ルールからは外れると考えられますが、著しい評価差や取得目的などによっては、財産評価基本通達総則6項が問題になる可能性があります。
また、不動産小口化商品は取得時期に関係なく別ルールの対象です。
Q. 以前から所有している土地に、最近アパートを建てた場合も対象ですか?
建物を課税時期前5年以内に新築していれば、建物が対象となる可能性があります。
ただし、通達発遣日前から一定期間所有している土地上の建物については経過措置が予定されているため、土地の取得日・着工日・完成日を確認する必要があります。
Q. 新しい評価方法でも小規模宅地等の特例を使えますか?
要件を満たせば適用を検討できます。
小規模宅地等の特例は、貸付用不動産の評価方法とは別の法律に基づく制度です。ただし、貸付事業や保有の継続要件などを個別に確認する必要があります。
Q. 2026年中に子どもへ贈与した方がよいですか?
評価方法だけで判断するべきではありません。
不動産の贈与には贈与税、登録免許税、不動産取得税、名義変更費用などが発生します。借入金や将来の売却、賃貸経営の承継も含め、贈与した場合と相続まで保有した場合を比較する必要があります。
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